首里城再興研究プロジェクトは、首里城の再興に資する研究の推進を目的に2020年3月23日に学内公募による研究プロジェクトとして創設された。
首里城の再興及び関連する沖縄の歴史・文化の再認識に資する研究をはじめ、首里城及び周辺文化財、首里のまちづくり等に関する幅広い分野で、特に「琉球の歴史・文化・芸能」、「離島」、「若年層を対象とした教育プログラムの開発」に加えて、「文化・言語」、「地域振興」、「観光」、「海外展開」等のキーワードに関連した研究プロジェクトを実施している。
「首里城正殿再建に使用する木材の基準強度評価について」
陳(ちぇん) 碧(び)霞(しゃ)(琉球大学 農学部 准教授)
風水は、周囲の自然環境を読み取り判断し、環境を整えることによって地気の好影響を確保する方法論である。14世紀末には、福建省から渡来した閩人(びんじん)の移民とともに琉球に導入され、1730年代以降は住宅や集落、墓地、国都の造成から山林の管理に至るまで、琉球王国の広範な領域で応用された。これまで首里に関する研究は、歴史文化や建築に偏重し、風水的視点から景観全体を捉える研究は少なかった。本研究は、文献調査およびフィールドワークに基づき、さらに日(琉球)・中・韓の比較的視点から琉球首里における伝統的な風水景観要素を抽出・整理することを目的とする。これにより、首里の文化的景観を東アジア的視野から再定位し、首里城復興とあわせてその思想的背景の継承と国内外への発信を目指す。
「木材の乾燥収縮によって生じる部材接合部の緩みが構造性能に与える影に関する研究 ―首里城正殿竣工後の維持管理手法構築への取り組み―」
尾身 頌吾(琉球大学 工学部 助教)
首里城正殿は伝統的構法によって建設されており、部材同士は木組みによって接合されている。そのため、木材中の含水率変化等により部材に狂いが発生すると、接合部に間隙が生じることが懸念される。そこで、本研究では、柱-梁接合部に使用される長ほぞ接合を対象に、沖縄県産木材を使用した接合部要素試験体を用いて、接合部の緩みが仕口部の構造的性能に与える影響を明らかにする。
これまで当研究室では、接合部における軸力の有無による影響について確認するべく実験を実施しており、その結果として軸力付加状態では、無付加状態よりも初期剛性が高くなり、最大モーメントにおいてもイジュで2.2倍大きい値となり、軸力の付加による接合部の構造的特性への影響を確認している。
今年度の活動として、沖縄県産木材の天然乾燥及び製材準備が完了しており、それら木材を用いた繰り返し載荷試験を行い、高含水率状態による構造的特性への影響を確認する。
「石造文化財保護に対する風化プロセス研究の貢献―首里城再興研究プロジェクトにおける地形学の役割―」
尾方 隆幸(琉球大学 教育学部 准教授)
世界各地の石造文化財では、酸性雨による石灰岩や大理石の溶解をはじめ、石材の劣化が問題になっている。石材の劣化は、地球科学(地形学)的に考えれば岩石の風化であり、これまで積み重ねられてきた風化プロセス研究の手法が現象解明に有効である。まず岩石の種類によって卓越する風化プロセスが異なること(例えば、砂岩では塩類風化、泥岩では乾湿風化、石灰岩では溶解がそれぞれ主たるプロセスになること)を正しく理解することが重要である。そのうえで、石材ごとに、物理的・化学的にどのような劣化の過程が生じているかを微視的に分析しなければならない。さらに石造文化財の劣化は、方位依存性、すなわち石材の向きによる環境条件の違いが風化速度に影響していることを考慮する必要もある。本研究では、これらの地形学的知見と手法を駆使して、首里城跡の石造文化財を適切に保護するための方策を検討する。
「首里城正殿の玉座背後の御床の板壁と「おせんみこちや」の板壁に使用された塗料の研究」
小林 理気 (琉球大学 理学部 物質地球科学科物理系 講師)
岩切 ゆうな(琉球大学 理学部 物質地球科学科物理系 4年)
首里城の正殿や「おせんみこちや」の板壁に施されたとされる「黄塗」は、平成の復元においては史料の記述を文字通り解釈し黄色塗料で再現された。しかし近年の調査により、実際には久米赤土を用いた茶系色の塗装であることが判明し、令和の復元では茶系の「黄塗」が採用されている。とはいえ、その化学的組成や施工技法については未解明の部分が多い。本研究では、伊是名玉御殿に伝来する「黄塗唐台」および関連道具の塗膜片を分析し、下地として赤土が使用されているのか、あるいは渋が使用されているのかを科学的に検証する、また、久米赤土と他地域の赤土との成分比較を行い、黄塗に久米赤土が選択された理由を探る。発表では、現在解析を進めている赤土試料のXRPD測定結果に加え、PGA分析のハイライトを紹介し、文化財復元に資する科学的知見を報告する。